(日刊ゲンダイ)

旅が面白いのは、そこにしかない景色や人、文化に触れられるから。ただし、人生は短く、訪れることができる場所は限られる。仕事や趣味で海外を飛び回る人たちは、どこで、どんな世界を見ているのか。一度は行きたいと感じる「絶景」を届けよう。

自転車世界一周旅行に出発して2年目に訪れたのが、アルゼンチン南部パタゴニア地方にあるフィッツロイ山。アウトドアブランドメーカー・パタゴニアのロゴマークのモチーフになった山だ。

フィッツロイは氷河によってギザギザに削られた山で、最初に目に入ったときは、この世のものとは思えず、夢でも見ているようでしたね。あまりに均整がとれているので、意図を持って造形された芸術作品のように感じられました。

ここまで行ったら、ぜひとも麓の町エル・チャルテンに宿泊し、夜明け前に展望台に行ってみてください。町から山へ1時間ほど歩けば着きます。

空が白み始めると、標高3400メートルの岩山がほんのりとピンク色に染まります。それから次第に赤く輝き始め、やがて朝日に照らされると金色に光ります。刻々と色の変化する山からは荘厳なシンフォニーでも聞こえてきそうです。

夕方は反対に山の後ろに太陽が沈みます。逆光に浮かび上がったフィッツロイも見応えがありますよ。光や気象条件で景色が変わるため、僕はここに1週間も滞在してしまいました。

自転車世界旅行を終えた後、ある旅行雑誌の取材で再訪しました。このときはカメラマンも一緒だったのですが、世界各地の絶景を撮影している彼も、これほどの山は見たことがないと感心していましたね。

もともとここは取材プランに入っていなかったのですが、結局そのとき撮ったフィッツロイが表紙を飾ったくらいです。

▽石田ゆうすけ(いしだ・ゆうすけ)世界9万5000キロを“自転車ひとり旅”し、現在は旅作家・エッセイストとして活躍。7年半かけて訪れた国は全87カ国、パンクした回数は184回。その旅を記録した著書「行かずに死ねるか」は海外でも発売され累計25万部を超える大ヒット。

投稿者 荒尾保一