(ゲッティ=共同)

中東イエメンと南米パラグアイでサバクトビバッタが大量発生し、世界各地で猛威を振るっている。収穫前の農作物を食べ尽くしながら移動するため、被害は周辺各国に広がっている。このままでは世界中で食糧危機が起こると、改めて危惧されている。

サバクトビバッタは砂漠などの乾燥地帯に大量の雨が降ると大繁殖を始める。今回、深刻なのは南米、ユーラシア、アフリカ大陸と複数の地域で発生していることだ。

今年に入り、アフリカ東部で発生したバッタはエチオピア、ケニアに広がり、イエメンで繁殖したバッタはイラン、イラクに北上、さらに南アジアのパキスタンやインドまで飛来している。

一方、南米のパラグアイでもサバクトビバッタが大量発生。1日100~150キロを移動し、わずか1日でサトウキビやトウモロコシなど約3万5000人分の農作物を食い荒らしながら、先日、アルゼンチンに南下。さらにブラジル、チリなど南米全体に広がる恐れが出ている。

インド政府などは被害を抑えるため、ドローンで殺虫剤を散布するなど駆除を試みているが、バッタに襲撃された地域では8割の農作物が食い尽くされるといわれ、国連食糧農業機関(FAO)は約30カ国で被害が出ると予測している。

■もし生産国が輸出規制をしたら…

この世界的なバッタ被害、日本は大丈夫なのか。日本への影響について農水省食料安全保障室の担当者は「これだけ世界各地で大量発生するのは珍しいことですが、そういった国々から(すべて)輸入しているわけではないので、現時点では影響はありません」と説明する。

しかし、東大教授の鈴木宣弘氏(農政)は「対岸の火事ではありませんよ」と、こう続ける。

「ただでさえ新型コロナウイルスの影響で人の移動と物流が止まり、世界中で農業生産が落ち込んでいます。食糧危機が懸念される中、バッタショックで事態が悪化すれば、生産国は輸出規制の措置を取るでしょう。まずは輸出を止めて食糧を確保し、自国を守ろうとします。いくら日本にお金があっても手に入らなくなるのです」

日本は小麦、大豆、トウモロコシの輸入の大半をアメリカに頼っている。世界中の生産量が減少すれば、流通量は少なくなり、価格は高騰、奪い合いになる。輸入依存度が高い家畜の飼料が影響を受けるのは必至だ。

「農産物の自由化を進めてしまったため、自給率が下がり、輸入に依存せざるを得なくなった。だからこういう事態が起こると耐えられない。貿易自由化を進め過ぎた結果です。米国主導の戦略が間違っていたのです。今こそ各国が自給率を高めなければなりません。日本の場合は家畜の飼料も輸入に頼っていますから、畜産は成り立たなくなります」(鈴木宣弘氏)

サバクトビバッタが海を渡って我が国に来ることはないが、バッタショックが日本に飛び火する可能性はある。

投稿者 荒尾保一