(ハーバービジネス オンライン)
南米アルゼンチンでは昨年末12月30日までにロシアの新型コロナワクチン「スプートニクV」を3万2013人に接種したところそれから24-48時間が経過した時点で317人が頭痛、筋肉痛、接種箇所の充血、関節痛、体力の衰弱、消化不良といった症状を訴えていたことが同国で最大の発行部数を誇る『Clarín』など主要紙などで明らかにされた。 当初、このような症状を訴えた人は接種した人の数から割り出して1%だということだった。この不快な症状は平均して24時間継続していたということだった。 ところが年が明けた1月6日、スペイン電子紙『El Diario.es』のアルゼンチン支局から副作用を訴えている人の数が2.7%まで増えたことを明らかにしたのである。
プーチンも接種しなかったスプートニクV
メキシコやチリなどがファイザーのワクチンを昨年末から摂取し始めたのにアルゼンチンはなぜその有効性についてまだ疑問のあったスプートニクのワクチンを選んだのかというのが批判の的になっている。 しかもアルベルト・フェルナンデス大統領はワクチン接種に疑いを持っている人に対して 模範を示すべくスプートニクのワクチンを誰よりも最初に接種してもらうと表明していたのにその公約を守らなかった。なぜ? さらにその上、アルゼンチン医薬品食品医療技術管理局(ANMAT)はスプートニクVがロシアでの臨床試験において高齢者には反作用が見られたということからその接種を疑問視していた。 にもかかわらず、政府はその接種を認可したのであった。 年齢が61歳のフェルナンデス大統領はその接種を避けたのだが、その理由はなんと、68歳のプーチン大統領がその年齢を理由に接種を避けたとテレビで述べていたからだという。つまり、スプートニクVは60歳以上の年齢者への接種はまだ勧められないということをプーチンの行動によって明らかになったのであった。
アルゼンチン紙『LA NACION』(1月3日付)によると、急進市民同盟のリーダーアルフレド・コルネホは、政府の官僚がヨーロッパと米国で開発されているワクチンの買い付け交渉に汚職が絡んで前進のないものにしたということを明らかにして政府を批難したという。また今回のロシアからのワクチンの輸入には地政学的な理由が背景にあったことにも同紙は触れたのである。 それは副大統領クリスチーナ・フェルナンデスが米国からの影響力を回避してロシアと中国からの影響力の回復を望んだということなのである。それで彼女は昨年11月にプーチン大統領と直接接触を開始したことも同紙は明らかにした。 汚職の疑惑を持たれていた彼女は大統領選で大統領として復活するのではなく副大統領になって実質大統領の権力を握るというのが彼女の戦略だった。それを具体化させたのが今回のワクチンのロシアからの買い付けである。大統領ではなく、副大統領の彼女が買い付けのイニシアティブを取ったのであった。勿論、この後は中国からのワクチンの輸入になるのは明白だ。 都合がよいことに価格についてもスプートニクVは他社のそれと比較して安い。2回の接種で20ドルだというのがアルゼンチン電子紙『Infobae』(2020年12月10日付)が明らかにしている。
米国寄りになったマクリ政権から再びの「転向」
彼女が大統領だった時に行っていた、「米国を完全に無視してのロシアと中国との外交重視」する路線の復活である。そこにはロシアのワクチンの安全性や有効性は二の次であった。 彼女のその具体的な動きは昨年10月29日、在アルゼンチンのロシア大使デミミトゥリ・フェオクティストフと上院議会の議長室にて会談をもったことであった。(参照:「El Diario.es 」) またそれに応えるべくプーチン大統領も外国に輸出する国として最初にアルゼンチンを選び60万人分のワクチンの分割しての供給を約束したのである。 しかし、その結末は、その第一号で届いたワクチンを3万人余りに接種したところ冒頭で触れたように371人が異常な反応を示したことになったのである。(参照:「La Politica」) このワクチン外交によって、マクリ前大統領の米国重視の外交から180度転換して、ロシアそして中国との外交重視路線が復活したのである。 果たして、米国と関係も維持したいアルベルトフェルナンデス大統領がどこまで彼女の外交戦略に同意して行くかは今後の展開を見守る必要がある。 <文/白石和幸>
(スプートニックV)
投稿者 荒尾保一