国際的ギタリスト ファン ファルー来日

2018/02/02
(毎日新聞)
彼の叔父は1960~70年代初頭、4度の全国ツアーで大喝采を浴びた巨匠、エドゥアルド・ファルー。ガットギター人気と呼応するように、当時フォルクローレと聞いて日本人が思い浮かべるのは、アンデス笛の物悲しい響きでなく、アルゼンチンのギター弾き語りだった。アタウアルパ・ユパンキと並び称されたエドゥアルドの至芸は、おいのフアン・ファルーへと受け継がれ、穏やかに進化を続ける。

 「もはや、エドゥアルドのおいとは紹介されなくなったが、若い頃には絶大な音楽的影響を受けた。尊敬する師だが、現在の私はフアン自身であろうと努めているよ」

 あぁ、ごめんなさい……古めかしくも失礼な前置きだったかな。

 48年アルゼンチン北西部トゥクマン州都生まれ。16歳で頭角を現すも、76年より8年のブラジル亡命を余儀なくされる。自作の歌に記した兄弟の名は、3万人ともいわれる軍政期に強制連行された、いまだ行方不明者の一人なのだ。

 「3年間サンパウロでグループ活動した経験が、亡命時代の苦痛をどれほど和らげてくれたことか。政治亡命からの帰国直後、アルゼンチンフォルクローレのギター作品が発表段階にあったんだ」

 それらレパートリーをリサイタルや共演プロジェクトで次々披露。今や国宝級ギタリストと称賛される存在であり、世界最大規模の国際ギターフェスティバル「ギターラ・デル・ムンド」の総合監督を務める身。また女性歌手リリアナ・エレーロといった同世代のみならず、次世代フォルクローレ系アーティストとも精力的に共演成果をあげてきた。日本で突出して人気の高いカルロス・アギーレ、アカ・セカ・トリオ、同トリオのギタリスト&ボーカリストで同郷のフアン・キンテーロ等々。そんな姿勢を見るにつけ、世代間の橋渡し役を自らの使命とするマエストロなのでは?と思うわけだが。

 「そうとも言えるね。新旧世代を橋渡しするのは誇りだ。ゆえに敬意を抱いてもらえるのだろう」

 4年ぶり、待望2度目の来日公演を間近に控えている。2012年に芸歴を集大成するアルバム2枚をリリースしているが、新作は?

 「年内に新曲を録音予定だ。今回の公演では新旧レパートリーの中から自然に導かれるまま、即興を交え演奏したい。歌の曲もね。かつて叔父が立った同じ空間で演奏できるとは、本当に光栄だ」

 サンバ(zambaとつづり、ブラジルの同名リズムとは起源も別)やチャカレーラ、ビダーラ、クエカ、ガト等、アルゼンチン各地の多彩な伝統リズムにのっとった端正かつ重厚、クラシカルな興趣をたたえるギター奏法。シブさを通り越し、枯淡の境地で迫る味わい深い歌が、必ずやぐっと聴き手のハートをわしづかみにするはずだ。(音楽ライター・佐藤由美)
投稿者 荒尾保一