[ブルームバーグ 21日] – アルゼンチンで19日行われた大統領選の決選投票を制したハビエル・ミレイ氏は、その翌日、投資家らからこれ以上ないほどの歓迎を受けた。
ミレイ氏が苦境にある経済を立て直し、インフレを抑えることができるかもしれないという楽観的な見方がウォール街で広がり、米国上場のアルゼンチン企業の株式は少なくともここ10年で最も大きく買われ、債券も値上がりした。
テスラのイーロン・マスク最高経営責任者(CEO)に加え、中南米市場向け電子商取引業者のメルカドリブレやソフトウエアソリューションのグローバントのトップらがミレイ氏を称賛した。
だが、アルゼンチンの連休が明ける21日はもっと厳しい状況になりそうだ。現地の市場や銀行が再開する予定だが、アルゼンチン国民がドルを買うために自国通貨ペソを引き出す動きが相次ぐ可能性について懸念が高まっている。
銀行は決選投票に向けて十分な手持ち資金を確保するための措置を講じたが、経営幹部は規制当局との私的な話し合いの中で、システムを強化するためにさらなる支援が必要になるかもしれないと話していた。
ほんの数カ月前までミレイ氏はリバタリアン(自由至上主義者)の下院議員としてあまり知名度もなかったが、アルゼンチン・ペソを廃止して米ドルに置き換えるという政策を柱とする抜本的な経済改革を約束。有権者と投資家を魅了した。
計画は大まかだが、自国通貨の価値が過去4年間で90%も急落し、「排せつ物」以下の価値しかなくなったとする同氏は、自身の公約の正当性をアピールした。
しかし、問題は移行期間中の経済活動をどう維持するかだ。ミレイ氏は移行に伴う具体的な手順やスケジュールを明らかにしていない。この計画を成功させるために痛みを伴うが重要な鍵となる、巨額の財政赤字の削減についても詳しく述べていないため、アルゼンチン国民は何が待ち受けているのか推測するしかない。
アルゼンチンは通貨規制と輸入制限を重ね、無数の為替レートを生み出し、ペソの1営業日当たりの下落を何年も制限してきた。
ミレイ氏のオフィスは20日、12月10日の大統領就任式まで閣僚人事を明らかにしないと発表。同氏はマイアミとニューヨーク、イスラエルを近く訪問する「スピリチュアルな意味を持つ」とする旅を行う意向を示した。
多くのアルゼンチン国民は闇市場でドルを購入し、手持ちのペソを直ちに清算することが最もリスクの少ない選択肢であると考え、待てば待つほどレートが悪化することを恐れている。オンラインの暗号資産(仮想通貨)交換業者では、ミレイ氏の勝利後にペソ安となった。
アルゼンチン中央銀行の報道官はコメントを控えた。
ゴールドマン・サックス・グループの中南米担当チーフエコノミスト、アルベルト・ラモス氏は、「われわれは未知の世界に向かっている」と指摘。「自国通貨に対する信頼は非常に低く、アルゼンチン経済はすでにかなりの程度、非公式のドル化が進んでいる。ただ、それは慣れ親しんだ通貨が国のために役立っていないという事実を反映しているに過ぎない」と述べた。
投稿者 宍戸和郎