[ブルームバーグ 6日] – アルゼンチンのミレイ大統領は、就任からちょうど100日余りが経過した。当選前に掲げていた野心的な改革の実現は遅れ、それが同国の政治・経済の現実を物語る。

地下鉄に0.12ドル(約18円)で乗車できる補助金の廃止には最長3年かかり、経済を損ねてきた通貨管理の撤廃は中央銀行のバランスシート整理が済んだ後でのみ可能だろうと、ミレイ氏はブルームバーグ・ニュースのジョン・ミクルスウェイト編集主幹とのインタビューで語った。ドル化はアルゼンチンの「不誠実な」政治家により阻止されているとも述べた。

  ミレイ氏は4日、「短期的な問題と長期的な問題を分ける必要がある」と大統領官邸で発言。「状況は複雑で、短期的には劇薬が必要だとわれわれは述べてきた。苦しい状況になるだろうが、それを抜け出せる」と続けた。ミレイ氏(53)は中央銀行閉鎖と経済のドル化を大統領選で行った公約の中核に据えたが、昨年12月10日の就任以来、その実現日時を確定させることができていない。これについて具体的な説明を求めたところ、ミレイ氏は予想していたよりもはるかに長い時間がかかるだろうと認めた。

  アルゼンチンの規制を緩和するミレイ氏の4000もの改革は、いま強引に進められないのであれば、来年の中間選挙の後まで待つことになりそうだ。エネルギーや交通費用に対する手厚い補助金の撤廃も、それに伴う大幅な費用増加を賃金がまかなえるよう、やはり先延ばしとなる。ドル化は引き続き長期的な計画で、中央銀行のバランスシートが整理され金融システムの改革が済んだ後で、市場が時期を決定することになるだろうと、ミレイ氏は主張した。

  それでもミレイ氏は、こうした遅れを小さな後退としか見なしていない。アルゼンチンを数年かけて資本主義と商取引の一大拠点に変貌させる旗手であると自任するミレイ氏は、こうした変革がもたらすであろう痛みに有権者は耐えられるだろうとしつつ、短期的な痛みの緩和には一定の譲歩が必要だと考えている。「みじめな賃金は、20年にわたるポピュリズムの結果だ」と同氏は指摘。「アルゼンチンでは文化的な変化が起きた。ポピュリズムが解決策にはならないと、多くが理解している」と語った。ミレイ氏によれば、変革は始まっている。アルゼンチンが年内に変動相場制に移行するのかとの問いに、ペソの変更為替レートは既に機能しているとし、並行レートと公式レートの差が縮小したことを称賛。中銀の損失は半減し、ハイパーインフレは回避されたとも付け加えた。

今のところ、市場はミレイ氏の疑わしい点を好意的に解釈している。5日の取引では、アルゼンチン国債は新興国債券の上げを主導し、年初来の堅調を持続。ブルームバーグがまとめたプライシングデータによると、2030年償還のアルゼンチン・ドル建て債は額面1ドル当たり55セント前後と、前日比で1.2セント高い水準で取引されている。JPモルガン・チェースのアナリストは3月、ディストレスト国債に対する強い追い風やミレイ氏の緊縮政策を挙げ、アルゼンチンのドル建て2035年償還債の購入を投資家に推奨。一方でモルガン・スタンレーのアナリストは最近、償還期限のより短いアルゼンチン債の一部を勧め、「当社の中心シナリオに沿って展開するならアルゼンチンはデフォルト(債務不履行)せず、今後1年で33%の上昇余地がある」とリポートに記した。

投稿者 宍戸和郎