既報の通り、フェルナンデス大統領は、下院議長であった有力政治家セルヒオ マサ氏を大幅に権限を拡大した新経済省の長に任命した。その狙いはどこにあるのか、またマサ氏の経済計画はどのようなものであるのか、ファイナンシャル タイムズ紙の報道を基に纏めてみよう。

アルゼンチンは、今、急速に進むインフレ、減少する外貨準備、膨らむ一方の国内債務など経済の難題に直面している。フェルナンデス大統領の右腕として、国内経済の運営とIMFとの債務再編交渉を一手に引き受けてきたグスマン元経済相が、経済政策の方向性をめぐって与党内の左派勢力と何か月も対立し、全く突然に辞任した。これを受け、市場心理は悪化し、ペソが急落し、通貨安によって、インフレが一段と進んだ。

経済学者やエコノミストは、2022年のインフレ率は90%を超えると予想し、国際価格は急落した。貧困の水準も高く、7~9月の四半期のGDPも縮小すると予測している。

フェルナンデス大統領は、本格的な経済危機が発生しないよう、7月4日に経済相に任命したばかりのバタキス氏を交代させ、マサ氏に、国家財政を立て直す仕事を託し、投資家と国民を安心させようとしている。

マサ氏は、3日、経済相就任の記者会見で、「私はスーパー大臣でも、魔術師でも、救世主でもない」と述べ、課題は途轍もなく大きいと語った。マサ氏は、予算は、財政赤字の縮減や民間部門の借り入れで賄い、紙幣の乱発はやめると明言した。ドル準備の積み増しや財政赤字削減のための政府補助金の組み換えも行うと述べた。いずれもIMFとの協定に盛り込まれた内容だ。

マサ氏が、経済政策だけでなく、製造業や農業、牧畜水産業を管轄することになり、債券価格は上昇した。投資家は、バタキス氏より、マサ氏の方がインフレ抑制でえ実行力を発揮すると期待しているようだ。

だが、クリスティーナ フェルナンデス副大統領とその支持者は、ペロン党は大統領選を控え、有権者をインフレ高騰から守るため、財政支出を増やすべきだと主張している。

エコノミストは、通貨切り下げや利上げのような厳しい政策を伴う経済再建計画が必要だが、マサ氏は、政治的な支持は得ているものの、確かな経済政策が導入されるのは、まだ先だろうとみている。

IMFと合意した債務再編計画では、アルゼンチンが財政赤字を埋めるのに、通年で、7650億ペソ(約7700億円)の紙幣しか発行できないこととなっている。しかし、既に、中銀は、6300億ペソを発行済みである。

マサ経済相は、IMFとの交渉も担当する。9月からの四半期に先立って、債務再編計画の実行について話し合うため、8月中旬にも会合がもたれる。

また、20億ドル超の債務について再交渉するため、日米欧など22か国とのパリクラブ会合も開かれる。

マサ氏の真価が問われる時期は、間近である。

投稿者 荒尾保一