(エル ディアリオ AR)

 性別による役割を排したタンゴ。女性と踊る女性、女性にリードされる男性。クィア・ミロンガ(性の概念にとらわれないタンゴのパーティー)は、異性愛を規範とする伝統的なタンゴの固定観念を打破するため、2000年代初頭にアルゼンチンで取り入れられた。

 首都ブエノスアイレスの「ラ・フュリオサ・ミロンガ」では、割り当てられた役割や従うべき型がない。カベセオ(相手を誘う会釈)やリードも、男性だけのものではない。

 創設者のリリアナ・フュリオさんは「クィア・タンゴは抱擁とタンゴ、アクティビズム(行動主義)が同居する空間だ」と話す。誰もが二つの役割を楽しむことができ、それが踊りを豊かにしてくれる。「私たちが直面している苦闘に抗(あらが)うための手段であり、非常に強力なボディーランゲージのように思えた」

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ジェンダー平等社会の実現に向けた特集「Towards Equality」には、朝日新聞を含む世界の報道機関14社が参加している

 フュリオさんにレッスンをしたクィア・タンゴの先駆者マリアナ・ドカンポさんは01年、女性のためのタンゴ教室を始めた。当初はフェミニスト、レズビアンのための場所だったが、05年に「性差別的な世界を破壊する概念」のクィア・ミロンガを開いた。

 LGBTの権利に関する法律が成立し、クィア・タンゴの発展を後押しした。政治的に大きく開かれた時期で、ミロンガを皮切りにその取り組みと概念が広がり始めたという。

 タンゴだけでなく、ほかの分野でも変化が起きてきた。ドカンポさんは「正当な支持を得るため、新たな概念を受け入れる空間へと高め続けてきた」と話す。

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エル・ディアリオAR提供

 15年、「ニ・ウナ・メノス」(「これ以上誰も」という女性運動)の動きが強まるなか、フェミニスト・タンゴが根を下ろし、女性や性的少数者で構成される新たなミロンガやオーケストラが結成されていった。

 18年には、暴力の防止に焦点を当てた女性団体「タンゴ・フェミニスト・ムーブメント」が誕生。ダンスホールでの暴力、ハラスメントに対処するための指針「性差別的暴力に対するプロトコル」を採択した。フェミニスト・タンゴは、合法で安全かつ自由な妊娠中絶を求める街頭運動など、公共の場でも表現されるようになった。「世代間のバリアーも取り払われた」とメンバーは語る。

 フュリオさんはクィア・タンゴの20年を振り返り、行動主義とタンゴの結びつきをこう指摘する。「芸術やダンスに由来するボディーランゲージは重要だ。他者がいなければ個性は存在せず、無益でもある。それを理解することが根本的な課題だ」(アルゼンチン エル・ディアリオAR)

投稿者荒尾保一