EFE通信社によるインタビューによれば、茂木外相は、「包容力と力強さを兼ね備えた」外交を通して、中南米との絆を強化するために、4日から同地域5カ国を歴訪する。今回は、メキシコ、ウルグアイ、アルゼンチン、パラグアイ及びブラジルを順に訪問し、新型コロナウイルス危機への対応において同地域と連携する菅政権の意思を表明する予定である。EFE通信社が茂木外相に対し書面で実施したインタビューのテキストは以下のとおり。
【問】今回の中南米5か国訪問は、過去の外務大臣の中南米外遊の中でも、訪問国数でみると最大の歴訪の一つです。中南米地域における日本にとっての新しい優先事項は何でしょうか。また、日本の影響力をどう強めていくのでしょうか。
【大臣】今回の訪問は、私が就任してから初めての中南米地域の訪問であり、この大陸から本年の日本外交をスタートできることを大変嬉しく思います。
我が国と中南米諸国は長きにわたり友好関係にあり、自由、民主主義、法の支配等の基本的価値を共有する重要なパートナーです。今回訪問するアルゼンチン、ブラジル及びメキシコは、緊密な二国間関係に加えて、G20メンバーとしても国際場裡で連携しています。ウルグアイとは2021年に外交関係100周年を迎えます。パラグアイは日系人の方々が国の発展にも大きく貢献した親日国であり、今回の訪問は二国間の文脈において日本の外相として初の訪問となります。日本にとって重要なパートナーである中南米諸国で私が目標とする「包容力と力強さを兼ね備えた外交」を自ら推進したいと考え、今回の訪問を決めました。
日本と中南米の関係は近年特に強化されています。経済面 では、多数の日本企業が中南米に進出し、現地の方々と協力して事業を実施し、中南米地域と共に発展をしてきています。その拠点の数は約3,000にのぼります。また、中南米には200万人以上の日系人がおり、両地域をつなぐ架け橋の役割を担っています。
新型コロナの世界的な感染拡大は、日本や中南米を含む世界中に影響を与えていますが、この困難を乗り越えるため、これまで以上に国際協調の必要性が高まっており、中南米諸国とも協力していく考えです。まだ物理的な往来は制限されていますが、中南米諸国ともオンラインのツールを使用して政策協議等対話を行ってきました。また、対コロナ支援として、中南米諸国20か国に対して総額7,360万ドルの医療用機材等の供与を実施しているほか、汎米保健機関(PAHO)への270万ドルの拠出による中南米諸国への医療機材供与を実施しています。さらに、米州開発銀行(IDB)に我が国が拠出している日本信託基金を用い、中南米諸国に対し約805万ドルの保健医療分野等における能力強化や物資提供等を実施しています。
日本は、2014年に当時の安倍総理が中南米を訪問した際、対中南米外交における3つの中核的な理念(共に発展、共に主導、共に啓発(Juntos!!))を発表しました。そして、2018年には、これを更に前進させるため、中南米諸国との間で3つの連結性(経済的連結性、価値の連結性、知恵の連結性)を強化していくことを発表しました。昨年9月に発足した菅政権では引き続きこれらの政策を進めつつ、デジタル分野や気候変動での中南米との協力にも力を入れていきたいと考えています。また、基本的価値を共有する中南米諸国とは、今後もルールに基づく自由で開かれた国際秩序の維持・拡大のために連携していく考えです。
これまで築いてきた友好の歴史を土台として、また、デジタル化を始めとする新しい潮流も踏まえ、中南米との関係を一層強化しつつ、新型コロナという目下の危機にも連携して取り組んでいく考えです。
【問】今回訪問される5か国はベネズエラの政治危機へ異なった姿勢を示しています。中南米におけるベネズエラ問題は重大な関心事であり、地域内に差異を生み出しています。日本はベネズエラ問題へはどういう姿勢で対応するのでしょうか。
【大臣】ベネズエラの政治・経済情勢及び人道状況の悪化は、540万人に及ぶ避難民を生み出し、ベネズエラ国内のみならず周辺国を巻き込んだ地域の問題に発展しています。今回訪問するメキシコ、ウルグアイ、アルゼンチン、パラグアイ及びブラジルの5か国は、ベネズエラ危機が民主的かつ平和的に早期に解決されることが重要であるという共通の認識を有していると理解しています。
日本は、昨年12月に実施されたベネズエラ国会議員選挙の手続の正統性に疑義を有しており、深い懸念を表明しました。また、人権理事会や国際ドナー国会合等においても、ベネズエラ国内における人権問題に対して、深い懸念を表明してきています。
日本は、こうしたベネズエラの政治・経済状況及び人道状況の悪化を受け、ブラジル、コロンビア、ペルー、エクアドルといったベネズエラ避難民を受入れている周辺国及びベネズエラ国内に、2017年以降約4,130万ドルの支援を実施してきました。
直近では、先月、国連児童基金に対して約490万ドルを供与し、ベネズエラ国内における帰還民・国内避難民を含む児童や妊産婦への予防接種の実施、及び医療従事者の能力強化のための支援を行っています。さらに、国際移住機関に対して約295万ドルを供与し、ペルー内のベネズエラ避難民に対する食料支援、職業訓練等を行っています。
日本は、引き続き、ベネズエラにおいて、広範な国民の参加を得た形での民主主義の回復と自由で公正な選挙の早期実施を求めており、グアイド暫定大統領を支持しています。新型コロナが拡大する中でも、引き続き、海外に流出するベネズエラ避難民の受入れを含め人道状況を注視していくとともに、こうした課題に対応するため今回訪問する5か国を含む中南米諸国及び国際社会と連携していく考えです。
【問】日本を追い越して世界第二位の経済大国になった中国が段々と連携を深めている中南米地域諸国を今回訪問されます。日本にかわって中国がこの地域において影響力を増していると思われますか。もしそうでしたら、日本政府はこの状況を回避するために何ができるでしょうか。
【大臣】日本と中南米は400年以上の長い交流の歴史があります。とりわけ、中南米地域の日系人は、最初の移住から100年以上が経ち、多くの日系人が各国の政治・経済分野で活躍し、国の発展に貢献してきました。
また、日本と中南米の多くの国々は、自由、人権、民主主義、及び法の支配といった基本的価値を共有しており、国際場裡でも連携してきています。
経済面では、多くの国がこの地域の魅力に着目していますが、日本は、短期的な利益にとらわれない、人材育成、社会経済格差、財政の健全性などにも留意した中南米諸国の持続的な成長への協力を重視しています。そしてルールに基づく自由で開かれた国際秩序の下、「共に発展」することを目指してこれからも連携・協力していきたいと考えています。
例えば、インフラ整備の場合、単に初期費用だけでなく、ライフサイクルコスト、環境・社会要因、調達の透明性といったことにも配慮して、中南米の人々の真に役立つ「質の高い」インフラを目指します。
日本は、こうした様々な分野にわたる中南米との良好な協力関係、これまで培ってきた信頼関係と人的絆というかけがえのない基礎の上に、今後も、経済、社会の発展、様々な地球規模課題への対応、自由で開かれた国際秩序の維持・強化のために、中南米との関係を一層強化していきたいと考えています。
投稿者 荒尾保一