(外務省発表)

林芳正外務大臣は、クラリン紙のインタビューにおいて、アルゼンチンとの関係の重要性を再確認し、また中国の情勢及び北朝鮮の危険性について言及した。

日本の林芳正外務大臣は、9日からアルゼンチンを公式訪問している。これは、中南米歴訪の一環であり、アルゼンチンのほか、メキシコ、エクアドル及びブラジル(サンパウロ及びブラジリア)を訪問した。また、この後米国も訪問する。
2018年には河野太郎外務大臣(当時)が、2021年には茂木敏充外務大臣(当時)が公式訪問しており、5年以内に3人もの現職の外務大臣がアルゼンチンを訪問したことは、本年外交関係樹立125周年を迎える両国の二国間関係の深化を象徴する。
クラリン紙は同大臣に書面インタビューを行ったところ、回答は以下のとおり。

(問)日本は他のアジア諸国と同様に、中国と重要な関係を築いているが、同時に中国を脅威としても見ている印象を受ける。このような複雑な二国間関係の中で、日本は今後どのような対中外交を進めていくのか。

(答)現在の中国の対外的な姿勢や軍事動向等は、我が国と国際社会の深刻な懸念事項であり、我が国の平和と安全及び国際社会の平和と安定を確保し、法の支配に基づく国際秩序を強化する上で、これまでにない最大の戦略的な挑戦であると認識している。
同時に、日中両国は、地域と国際社会の平和と繁栄にとって共に重要な責任を有している。中国との間で、主張すべきは主張し、責任ある行動を強く求めつつ、諸懸案も含め、対話をしっかりと重ね、共通の課題については協力する、という「建設的かつ安定的な関係」の構築を双方の努力で進めていくことが重要であると考える。

(問)台湾有事の懸念が高まっているが、現実的な危険性についてどう考えているか。

(答)台湾海峡の平和と安定は、日本の安全保障はもとより、国際社会の安定にとっても重要。台湾をめぐる問題が、対話により平和的に解決されることを期待するというのが我が国の従来から一貫した立場である。
日本は、こうした立場を中国側に直接伝えるとともに、各国の共通の立場として明確に発信していく。

(問)北朝鮮の主要な脅威は何であり、その脅威はどの程度のものか。
(答)北朝鮮による前例のない頻度と態様で続く一連の挑発行動は、国際社会に対する深刻な挑戦である。北朝鮮のミサイル発射数は、昨年は過去最高の70発以上、そのうち弾道ミサイルは、これまでで最も多い年(2016年23発)の2倍以上の59発であった。我が国上空を通過する弾道ミサイルや、我が国の排他的経済水域(EEZ)内に着弾したICBM級弾道ミサイルも含め、北朝鮮による核・ミサイル活動は、我が国の安全保障にとって重大かつ差し迫った脅威であるとともに、地域及び国際社会の平和と安全を脅かすものである。我が国として断じて容認できない。
引き続き、日米、日米韓で緊密に連携し、国際社会とも協力しながら、関連する安保理決議の完全な履行を進め、北朝鮮の非核化を目指す。

(問)岸田政権は先般、日本が今後5年間で防衛費を倍増することを発表した。この決定は中国や北朝鮮に対する警告を目的としたものか。

(答)国際社会は協調と分断、協力と対立が複雑に絡み合う時代に入ってきている。その分断が最も激しく現れたのが、ロシアによるウクライナ侵略という暴挙。残念ながら、わが国の周辺国・地域においても、核・ミサイル能力の強化、あるいは急激な軍備増強、力による一方的な現状変更の試みなどの動きが一層顕著になっている。
国際社会が歴史の岐路に直面する中で、日本は、平和で安定した国際環境を能動的に創出するためにも強い外交を展開していくとともに、防衛力など総合的な国力を最大限活用していく。
特に、我が国の抑止力、対処力を向上させることで、武力攻撃そのものの可能性を低下させる必要がある。そのため、2027年度において、防衛力の抜本的強化とそれを補完する取り組みを合わせて、そのための予算水準が現在のGDPの2%に達するよう所要の措置を講ずることとした。
外交努力の必要性は言うまでもないが、同時に、その裏付けとして防衛力の強化も避けて通れず、また、それにより外交における説得力にも繋がると考えている。

(問)新型コロナウイルスの感染拡大以降、中南米を中心にグローバルサウスの社会的及び経済的危機が深刻化している中で、日本のような大国は同地域においてどのような役割を果たすことができるか。

(答)新型コロナウイルスの感染拡大により、国際社会全体は大きな危機にさらされ、特に各社会の脆弱層が影響を受けた。その影響から立ち直らんとしている中で、ロシアのウクライナ侵略により、更に経済への影響が広がった。この共通の課題に国際社会と対処していくこと、そして、中南米地域の社会及び経済の安定的発展は、日本にとっても重要。
日本は中南米地域の新型コロナへの対応を様々な形で支援してきた。例えば、2021年及び2022年にコールドチェーンなどの整備のための支援を合わせて14か国に対して実施したほか、医療機材供与や能力強化支援も行っている。また、日本はこれまでも、短期的な利益にとらわれない、人材育成や社会経済格差の是正、財政の健全性等にも留意した中南米諸国の持続的発展への協力を重視しており、これからも重視していく。
経済面では、多くの国が中南米地域の魅力に着目し、また現下の国際情勢を受け、豊富な資源やエネルギー、食料安全保障の観点からその重要性を改めて認識している。日本も、中南米地域との間で更に貿易・投資を活性化させていきたいと考えている。これからも、日本と中南米各国とで共有する基本的価値に基づき、「共に発展」することを目指す。
また、日本として、新たな成長をもたらすGX(グリーン・トランスフォーメーション)やDX(デジタル・トランスフォーメーション) も重視しており、包摂的で持続可能な発展の実現に向け、引き続き様々な形で協力していきたいと考えている。今回の私の訪問は、これらの点について中南米の友人に明確にお伝えし、共に協力していくことを目的としている。

投稿者荒尾保一