[時事 21 日] – 19日に行われた南米アルゼンチン大統領選の決選投票で、独立系右派ハビエル・ミレイ下院議員(53)が中道左派与党連合候補を破り勝利した。経済危機を招いた現フェルナンデス政権に対する不満票の受け皿となった。経済の安定化に向け、通貨ペソを廃止して米ドルを導入するなどの「荒療治」で対処すると表明しており、実行されれば混乱を招くのは必至。外交は現政権の親中路線とは決別し、親米に軸足を置く見通しだ。

ミレイ氏は19日夜、支持者らを前に勝利を祝う演説を行った。「きょうでアルゼンチンの衰退の終わりが始まる。新たなページを開こう」と呼び掛けた。

選挙では、インフレが年150%に迫る中で行われ、経済再生が主要な争点となった。アルゼンチンでは過去2回の選挙で二大政党連合が交互に政権を担ったが、諸問題の解決は先送りされた。「第三の候補」として過激な主張を展開するミレイ氏の政策に活路を見いだそうとする有権者の票が、同氏を国の頂点の座に押し上げた。

12月10日に大統領に就任するミレイ氏は、政権発足当初から少数与党となる見込み。選挙協力で一致した中道右派の一部と連携する見通しだが、政権運営は難航が予想される。目玉公約のドル化にしても、国の外貨準備が実質マイナスとなる中、まずはドルを調達する必要があり、実行までには時間がかかりそうだ。

ブエノスアイレス大学講師サンティアゴ・ガルシア氏は、ドル化など一連の対策は、アルゼンチンで過去に実施された新自由主義の政策に位置付けられると指摘。「(過去の政策は危機を)せき止める役目を果たしたが、最終的には危機が深まった」と警告した。

外交方針についてミレイ氏は「地政学の同盟は米国とイスラエルだ」と発言。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」への参加などを通じて中国と関係を深めた現政権からの大きな方針転換となる。

ミレイ氏は米国のトランプ、ブラジルのボルソナロ両前大統領を称賛し、政治手法も両氏に似ている。米国とブラジルでは前大統領の政権下で国の分断が進み、いずれも支持者らが議会を襲撃する事件が起きた。アルゼンチンでも期待が失望に変われば、同様の事態を招きかねない。

投稿者 宍戸和郎