(東京新聞) 国立競技場やJR山手線高輪ゲートウェイ駅舎の設計を手掛けた世界的な建築家隈研吾さん(66)=写真=による建築物が、境町に続々とオープンしている。いずれも木材を効果的に使ったシャープなデザインが特徴。
9月には、アルゼンチンと町の友好関係を示す新装の「モンテネグロ会館」が5カ所目として開館した。隈さんは「建築物を訪れ、町内を巡るきっかけになれば」と期待し、6カ所目も近くお目見えする予定だ。
 白いモルタルの壁に、大きなガラス窓。年季の入った木材が、建物にアクセントを付ける。木造平屋の延べ六十四平方メートル。今回新装されたモンテネグロ会館は、古くからの住宅街の一角にひっそりと立つ。隈さんは九月十六日の落成式で「以前の会館にあった柱を、そのまま使った」と明かした。
 旧モンテネグロ会館は一九三七(昭和十二)年の建築。アルゼンチンのモンテネグロ臨時代理公使(当時)が「この地域の施設に」と建築費を差し出したのがきっかけだ。実はモンテネグロ氏の先祖は、十九世紀半ばの黒船来航の際、船に同乗していたアルゼンチン人の船員。この時、境町出身の武士野本作次郎と交流があったという。
 以後、モンテネグロ会館はアルゼンチンと町との友好の懸け橋となった。築八十年を超え、老朽化が進んだため、町は改築を決めた。新装後は民間に貸し出し、地場産のお茶を提供する喫茶店として生まれ変わった。
 落成式には、隈さん、橋本正裕町長のほか、アラン・ベロー駐日アルゼンチン大使、さらにアルゼンチンとの縁を結んだ野本作次郎のひ孫・勇作さん(85)ら約百十人が出席、新たな門出を祝った。勇作さんは「こうして町とアルゼンチンの友好関係が続き、会館が新しくなったことを大変うれしく思う」と笑った。
 隈さんの建築物のオープンは近年、町内で相次いでいる。モンテネグロ会館のほか、サンドイッチなど食品を扱う「さかいサンド」(二〇一八年十月オープン)▽ビュッフェ形式の食堂「さかい河岸レストラン茶蔵」(一九年四月)▽地場産の食品を開発する「S(エス)−Lab(ラボ)」(二〇年八月)▽地元の画家・粛粲寶(しゅくさんぽう)さん(故人)の作品を収めた「S(エス)−Gallery(ギャラリー)」(二〇年八月)の四施設。さかいサンドとレストラン茶蔵は「道の駅さかい」に整備された。
 町まちづくり推進課などによると、隈さんと橋本町長は、町戦略会議の女性委員を通じて知り合い、信頼関係を育み、デザインの依頼をしてきた。隈さんは町について、東京に近い立地と特産のお茶や豚肉などを高く評価。「自治体の仕事は単価は安いが、やりがいがある」とし、現在は六カ所目となるカフェのオープンも予定している。
投稿者 荒尾保一