[ブルームバーグ 20日] – 19日投開票された南米アルゼンチン大統領選決選投票で、同国経済のドル化や中央銀行の廃止などを主張するリバタリアン(自由至上主義者)のアウトサイダー、ハビエル・ミレイ下院議員が勝利した。数十年にわたる不適切な政策運営を是正するためとして過激な見直しを公約した結果、経済が落ち込み、世界的にも極めて高いインフレ率に苦しむ国民の間で支持を広げた。

選挙管理当局によると、開票率99%でミレイ氏の得票率は56%。与党連合の中道左派セルヒオ・マサ経済相は44%にとどまった。ミレイ氏がこれほどの差で勝利するとは予想されておらず、マサ氏は公式結果が公表される前に敗北を認めた。

ミレイ氏(53)はブエノスアイレスの選挙対策本部で歓喜に沸く聴衆に対し、「きょうがアルゼンチン再建のスタートだ」と表明した上で、「漸進的な対策を講じる余裕はない」と述べた。ブエノスアイレスはアルゼンチン国旗を振る支持者であふれた。

今回の大統領選結果を受け、経済のドル化や中銀廃止、公共支出の大幅削減など選挙公約の実現に向けてミレイ氏は有権者から負託を受けた。

だが、ミレイ氏流のショック療法によって、アルゼンチンは強い不確実性の道に向かうことになる。一部のエコノミストは外貨準備高が枯渇した状況で6220億ドル(約92兆6000億円)規模の同国経済をドル化すれば、新たなハイパーインフレを招く恐れがあると警鐘を鳴らす。他方、国際通貨基金(IMF)の当局者は次期政権に速やかな経済のリセットを求めている。

マサ氏は「アルゼンチン国民は別の道を選んだ」と支持者らに述べる一方、ミレイ氏にはフェルナンデス大統領と会った上で、政権移行期に経済的・政治的な確実性を確保するよう呼びかけた。ミレイ氏は12月10日に大統領に就任する予定。

アルゼンチン国民はマサ氏が提示した継続性ではなく、急激な変化を選んだ。インフレ率が143%に達し、購買力は落ちる一方となっており、市民が感じる痛みの強さが改めて浮き彫りとなった。

ミレイ氏は議会では少数派で、国民の40%超が貧困ラインを下回る生活を余儀なくされ、有権者も早期の成果を期待しており、今後の焦点はどのように公約を実行するのかに移る。

ユーラシア・グループの中南米担当ディレクター、ダニエル・カーナー氏は「長い不確実性の時期が始まる」と指摘。「ミレイ氏はチームを持っておらず、自身の計画実行は非常に困難だ」と話す。

また、自由な市場を唱えるミレイ氏の当選により、アルゼンチンの二大貿易相手国ブラジルと中国にはマイナスとなる可能性がある。同氏は選挙中、両国が「社会主義」だとして関係を凍結する考えを示していた。

 

投稿者 宍戸和郎