アルゼンチン政府は17日、暗号資産(仮想通貨)の売買や仲介に関するサービス提供が、課税の対象となる法令の改正を発表した。これまで課税を免除されていた、同国内の仮想通貨取引所が最も大きな打撃を受けると考えられている。

アルゼンチンには、現金の預け入れ、電信送金、小切手の換金など債権・債務に関する銀行取引に対し、最大0.6%が課税されるいわゆる「小切手税」が存在する。(正式名称は銀行債務・債権税)

今回改正された小切手税の規則では、「資金の移動が、暗号資産、仮想通貨、デジタル通貨、または類似の商品の購入、販売、交換、仲介、および/またはその他の操作に関連している場合」には、免除の対象から除外される。この規則は発令当日に有効となった。

政府は、この法令改正の目的について、電子商取引の急増で急成長を遂げた決済サービス事業者に対し、税の免除対象を明確化し、制限を設けることだと説明している。

アルゼンチンのRoberto J. Arias税務政策長官は、今回の措置は債権債務税の定義を明確にするものであり、新たに仮想通貨に課税するものではないと発言している。

小切手税は経済取引に直接影響することから、連鎖した経済活動全体を「歪曲」し割高にしてしまうとアルゼンチン・カトリック大学のErnesto A. O’Connor教授は指摘している。また、同氏は取引ごとに課税される銀行取引を避けるため、闇取引市場の利用など脱税行為を助長すると批判した。

仮想通貨が小切手税の対象となり、同様の懸念が再燃する可能性も高い。

一方、30万人のユーザーを抱える投げ銭プラットフォームCafecitoの開発者、Damian Catanzaro氏も政府の対応を批判している。

仮想通貨に対する小切手税は、いつものことながら地元企業を苦しめるものだ。企業はそのパーセンテージを消費者に転嫁しなくてはならず、その結果、ますます多くのユーザーがP2Pや非カストディ型ウォレットに流れることになる。こんな窒息させるようなやり方は無益。

( P2Pとは、専用のサーバーを介せず、接続されたコンピューター同士がコミュニケーションするネットワーク形態のこと。)

さらに現地の業界関係者は、アルゼンチン国内の銀行口座を持つ取引所が運営コストを顧客に転嫁するようになると、アルゼンチン・ペソ建の仮想通貨の価格上昇が起こる可能性が高いと指摘している。

なお、アルゼンチンでは2017年から、仮想通貨取引で生じたキャピタルゲインは所得税の対象となっている。

アルゼンチンの小切手税は、Domingo Felipe Cavallo経済大臣(当時)が2001年、国が直面していた深刻な経済・財政危機に対処するための一時的な措置として創設された経緯がある。ハイパーインフレに悩まされるアルゼンチン政府にとって、同国で拡大する仮想通貨市場を税収の財源としてターゲットにすることは当然の帰結だったのかもしれない。

仮想通貨業界に税収の好機を見たのはアルゼンチンだけにとどまらない。

15日に成立した米国のインフラ投資・雇用法では、インフラ投資に充てる資金源として、仮想通貨セクターから約3兆円の税収を見込んでいるという。しかし、同法の仮想通貨条項に関しては、税務報告義務の対象となる「ブローカー」の定義が曖昧なまま、法として成立してしまった経緯がある。

投稿者荒尾保一