ロイター報によると、ラ米諸国からアメリカへコロナワクチン接種のため向かう人々が急増しているという。

近くはメキシコ、遠くはアルゼンチンに至るまで、ラテンアメリカ諸国から何千人もの人々が米国行きの航空券を予約している。自国におけるワクチン接種計画が難航しているため、世界で最も成功した部類に入る米国のワクチン接種体制を利用しようという考えだ。

ラテンアメリカは、今回のパンデミック(世界的大流行)による最悪の影響を受けた地域の1つである。死者数は今月にも100万人を超える勢いであり、ワクチン接種の順番をこれ以上待たされるのはごめんだという人は多い。

独力で米国に向かう人もいるが、それ以外は旅行代理店によるツアーを利用する。旅行代理店側では、ワクチン接種の予約、フライト、ホテル宿泊の手配、さらには市内観光やショッピングの手配といったオプションまで組み合わせたツアーパッケージを提供している。

メキシコで旅行代理店RSCトラベルワールドを経営するレイ・サンチェス氏によれば、ワクチン接種ツアーの需要が盛り上がるなかで、メキシコから米国への航空運賃は3月中旬以来30ー40%上昇した。

同氏は「メキシコからは数千人、他のラテンアメリカ諸国からも数千人が、ワクチン接種のために米国を訪れている」と語る。人気の目的地は、ヒューストン、ダラス、マイアミ、ラスベガスだという。

米国の都市は、資金繰りに苦しむホテル、レストランやその他のサービス産業が切望していたビジネスをもたらすワクチン接種ツアーのブームに飛びついた。

ニューヨーク市政府は5月6日、ツイッターに「ニューヨークへようこそ。ワクチンがあなたを待っています。当市を象徴する名所で、J&J製ワクチンを接種いたします」と投稿した。

在ペルー米国大使館は最近のツイッターへの投稿で、ペルー住民に対し、ワクチン接種を含め医学的処置のために米国を訪問することは可能だとアドバイスしている。

はるか南のアルゼンチンでも、旅行代理店がワクチン接種ツアーを販売している。

ブエノスアイレスで見られる広告では、マイアミでワクチン接種を受けるための推定費用が詳しく示されている。航空運賃が2000ドル(約22万円)、1週間のホテル滞在費が550ドル、食費350ドル、レンタカー500ドル、ワクチン接種は無料。合計で3400ドルだ。

 

ラ米諸国は、国内にワクチン製造のためのインフラがほとんどまったく無いため、ラテンアメリカでのワクチン接種計画においては、ワクチン供給の遅れや不足が壁となっている。米疾病対策センター(CDC)と「アワー・ワールド・イン・データ」によると、米国はすでに2億6200万回近いワクチン接種を行った。これは、合計人口では米国の約2倍に当たるラテンアメリカ全体の接種回数の約2.3倍となっている。

ラテンアメリカ諸国におけるワクチン接種計画への不信感も1つの要因だ、とサンチェス氏は指摘する。

当局により大量の偽ワクチンが押収されたとの報道や、2回目の接種の時期が来たときにワクチンが不足しているといった点も、ラテンアメリカ諸国の人々が挙げる不信感の理由だ。

ワクチン接種ツアーは米国向け航空旅客が急増する契機となった。ロンドンに拠点を置く航空コンサルタント会社MIDASアビエーションのレネ・アーマス・マエズ民間航空担当副社長は、航空各社が増便を進めているものの、出発日時の迫った便の料金は1月に比べ2倍、あるいは3倍にも上昇していると述べた。

ラテンアメリカ地域最大の航空会社であるLATAM(ラタム)航空グループは6日、新型コロナウイルスに対するワクチン接種のため米国に向かおうとするラテンアメリカ諸国の人々による需要が増大しているとした。

メキシコ航空大手アエロメヒコによると、メキシコ・米国間の航空旅客数は、3月から4月にかけて35%増加した。

またアメリカン航空は、ここ数カ月、ラテンアメリカ各地からの需要が急増しており、特にコロンビア、エクアドル、メキシコ方面を増便していると明らかにした。

「これらの市場の多くにおける需要増大に対し、運航頻度の増加、新ルートの追加、ワイドボディ機の利用などで対応し、結果として輸送能力が増大している」と説明した。

投稿者 荒尾保一