(BBCニュース)
アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで1日夜、クリスティナ・フェルナンデス・デ・キルチネル副大統領(69)に男が銃を向け、その瞬間に動作不良になる事件が起きた。2日には数千人の支持者が首都中心部に集まり、副大統領への支持を表明するとともに、政治的暴力を批判した。
副大統領は事件当時、ブエノスアイレスの自宅前で、汚職疑惑の渦中にいる本人を支持する市民らに囲まれていた。
フェルナンデス・デ・キルチネル氏が支持者にあいさつをしていたところ、群衆の中から突然、銃口が彼女に向けられた。
事件現場で撮影された映像には、フェルナンデス・デ・キルチネル氏の眼前で拳銃の引き金が引かれる様子が映っている。副大統領は何が起きたのか分からない様子で、地面に落ちたものを拾おうと頭を下げている。
別の角度からの映像では、群衆が犯人から副大統領を遠ざけようともみ合う様子も映っている。
副大統領にけがはなかった。犯人の男は警察に拘束されている。
アルベルト・フェルナンデス大統領によると、男が手にしていた拳銃には銃弾が5発詰められていたが、発砲されなかったという。
警察が身柄を拘束した男はブラジル生まれでアルゼンチン在住のフェルナンド・アンドレス・サバグ・モンティエル容疑者(35)。2021年には、刃渡り35センチのナイフを所持していたため現行犯逮捕されている。
現地メディアが伝える容疑者のソーシャルメディア投稿写真からは、ネオナチス組織に関係するタトゥーを入れている様子がうかがえる。
また、警察が容疑者の自宅を家宅捜索したところ、銃弾100発の入った箱2箱を押収したという。
当局は、犯行動機を捜査中だとしている。
フェルナンデス大統領は、今回のフェルナンデス・デ・キルチネル氏の暗殺未遂は、1983年の民主化以来、最も深刻な事件だと非難した。
また、国民が「命と民主主義を守り、副大統領と連帯を示す」ための時間がとれるよう、2日を国民の祝日に指定した。
この日、ブエノスアイレス中心部の広場「プラザ・デ・マヨ」に集まったデモ参加者は、「私たちはみなクリスティナ」だと叫んだり、旗を振ったりして、フェルナンデス・デ・キルチネル副大統領への連帯を示した。
デモに参加したサンティアゴ・ビアンコさん(58)はロイター通信の取材に対し、「銃弾が発射されなかったのは神様とマリア様のおかげだ」と話した。
クラウディアさん(37)は、「私たちにとって、クリスティナにこのようなことが起きるなど考えられない」と語った。
「私たちは昨夜、理解すらできないほど恐ろしいことを免れた」
副大統領はその後、この事件について公の場で発言していないものの、2日に自宅を出る際には支持者らに手を振っていた。
左派のフェルナンデス・デ・キルチネル氏は2007~2015年に同国の大統領を務めた。その後、4年間にわたってファースト・レディーとなった後、2019年に副大統領に就任した。
フェルナンデス・デ・キルチネル氏は現在、大統領時代に公金横領などに関わったとして起訴されている。同氏の自宅前にはここ数日、起訴に反発し、同氏を支援する支持者らが集まっていた。
検察側は、有罪となれば禁錮12年と政界からの終身追放になるとしている。
しかし、フェルナンデス・デ・キルチネル氏は上院議長でもあるため、議員として不逮捕特権を持っている。最高裁判所が判決を批准するか、2023年末に予定されている次回選挙で議員資格を失わない限り、禁錮刑を受けることはないという。
フェルナンデス・デ・キルチネル氏はほかにも、大統領時代について複数の汚職疑惑をかけられ、起訴されている。現在行われている裁判では判決が降りるまでに数カ月かかる見込みだ。
(英語記事 Argentines rally after failed assassination attempt)
投稿者荒尾保一