[ブルームバーグ 15日] -「自由よ永遠なれ、この野郎!」。ハビエル・ミレイ氏は勝利演説の最初と最後でこう叫び、自身が「ボス」と呼ぶ妹と、5匹の犬に感謝を表明した。犬にはリバタリアン(自由至上主義者)が崇拝する経済学者の名前が付けられている。

アルゼンチン版ドナルド・トランプ、あるいはもみあげの濃いエルビス好きの変わり者、もしくは中南米にありがちな過激な経済思想を持つポピュリスト(大衆迎合主義者)として、ミレイ氏を片付けてしまうのは間違っている。唾をまき散らす演説から、ミルトン・フリードマンなど著名思想家の名前が付けられた巨大な犬まで、ミレイ氏はアルゼンチンの政治エスタブリッシュメントにはあり得なかったイメージを振りまく。「地獄のように怒っている」と連呼することで、強烈なインフレと再度迫っているリセッション(景気後退)に我慢の限界を試されている有権者から支持を稼いだ。

   世論調査会社トレプントセロの政治アナリスト兼ディレクター、シーラ・ビルカー氏は「劇的な変化を求める人は、世の中があまりにもぐちゃぐちゃになっているので、まともな人ではそれを変えられないと考えてしまう」と分析。「従ってネガティブな特徴はすべてプラスに働く」と説明した。

  ミレイ氏は一夜にして人気者になったわけではなく、その思想は古くからよく知られた内容だ。中央銀行の廃止から、ペソに代わるドルの採用、臓器売買の合法化まで、アイデアは多岐にわたる。「いつもと同じ顔ぶれ、いつも失敗してきた連中ではアルゼンチンは変われない。それを忘れるな」とミレイ氏は13日の勝利演説で主張。有権者にはおなじみの顔ぶれである政治エリートに向けて、ミレイ氏の支持者らは「みんな消えろ。一人残らず去れ」と声を合わせて非難した。

  ミレイ氏は政治家らしからぬカリスマ性で無関心有権者の注目を集めることに成功。選挙キャンペーンの最終日はヘビーメタルのロックスターのように大型コンサートアリーナを満員にした。「メイク・アルゼンチン・グレート・アゲイン(アルゼンチンを再び偉大に)」と書かれた帽子をかぶり、メタリカの代表曲の一つ「ドント・トレッド・オン・ミー」のロゴに使われた蛇のデザインを施したケープをはおり、支持者らは街路に列を成した。ミレイ氏はメタリカの熱狂的なファンであることを公言している。スクリーンではビルが爆破される動画が映され、聴衆をあおった後、ミレイ氏は支持者の波をかき分けてステージに登壇した。

  ブエノスアイレス郊外に住むマリソル・バラサさん(35)は、ミレイ氏に投票した。清掃業の収入では暮らせず、母親と双子の妹と同居するバラサさんは、ビデオジャーナリストになるための教育を受けたが仕事が見つからなかったという。予備選の結果は「選挙に感じる怒りが反映されたという意味で、良かった」とバラサさん。ミレイ氏について、「魚を与えてくれはしないが、魚の捕り方を教えてくれる。だから私のような若者は彼を支持する。私たちは夢を叶えたい」と述べた。

妹カリナ・ミレイ氏と祝うハビエル・ミレイ氏(8月13日)

投稿者 宍戸和郎