[ブルームバーグ 15日] – 自由市場信奉者で政治的アウトサイダーのハビエル・ミレイ氏は、13日に行われたアルゼンチン大統領選挙の予備選で予想外の首位となった。予備選は10月22日に予定される本選挙に進出する候補者を絞り込むために実施された。ミレイ氏について知っておくべきことや、大統領選がアルゼンチン以外の世界にとっても重要である理由を挙げてみる。

1.予備選の結果は何を意味するのか?

予備選の結果はミレイ氏の予想外の勝利となった。同氏の得票率は30%で、保守系野党候補は28%、与党の中道左派候補は27%だった。

2.ハビエル・ミレイ氏とはどんな人物か?

  エコノミストでテレビパーソナリティー、経済への国の介入を最小限にとどめることを提唱する政治哲学のリバタリアニズム(自由至上主義)を信奉する。トランプ前米大統領によく例えられ、アルゼンチンを激しいインフレと経済的危機に陥れた右派と左派双方の主流政治家に対して広がった幻滅感を自らの支持に変えた。「みんな消えろ」はミレイ氏の代表的なスローガンの一つ。政治の世界に公式に飛び込んだのは2年前に下院議員としてだった。

3.ミレイ氏が提案していることは?

  ミレイ氏の主な提案は政府支出の削減、通貨のドル化、中央銀行の廃止、貿易の開放で、恒久的な経済的カオスに終止符を打ち、資源に富むアルゼンチンの潜在性の実現につながるとしている。同国はこの10年で6回目のリセッション(景気後退)に向かっており、100%を超えるインフレ率に対処している。同氏はまた犯罪に対して厳格な姿勢を示し、銃器市場の規制緩和を提案している。未成年を収監する際の年齢の引き下げ検討の意向を表明しているほか、臓器売買を支持し、人工妊娠中絶を非難している。

4.ミレイ氏の予備選勝利に市場はどう反応したか?

  予備選の結果が公表されるとアルゼンチンの債券と通貨は急落。政府は劇的な政策シフトを余儀なくされ、通貨ペソの公式為替レートを18%切り下げ、主要政策金利を21ポイント引き上げた。予備選の結果はアルゼンチンが長引く不確実性の時期にあることを示唆している。

  10月の本選では、1回目の投票で当選を決めるためには45%の得票率を得るか、40%の得票率を獲得した上で他の候補者に10ポイントの差をつける必要がある。第1回投票では勝負がつかず、11月19日に予定される決選投票にもつれ込む可能性が高い。ミレイ氏が勝者となった場合、自身の提案をどのようにして現実化するのか、社会的混乱を招くことなくどのように支持を得るのかは不透明だ。多くのエコノミストは、ペソの廃止計画は金融混乱を引き起こすと予想する。

5.本選での対抗馬は?

  ミレイ氏の主なライバルは2人。1人目は与党正義党(ペロン党)出身で現経済相のセルヒオ・マサ氏。マサ氏は少なくともフェルナンデス現大統領よりも若干ビジネス寄りの姿勢を打ち出してはいるが、現状維持となる中道左派の選択肢だ。もう1人のライバルは中道右派の野党グループの候補者で元治安相のパトリシア・ブルリッチ氏。中道右派勢力は政権の座にあった2015-19年、アルゼンチンの新たな夜明けを約束したが、大掛かりな国の介入からの段階的シフトは有権者や投資家を納得させることができなかった。ブルリッチ氏はより「ショック療法」的な提案を行っている。

6.選挙はなぜ国境を越えて影響が及ぶ可能性があるのか?

  アルゼンチンは商品大国であり、世界の農作物、牛肉、リチウム、銅、原油市場に影響を及ぼす可能性がある。同国はクリーンエネルギーへの転換に必要なリチウム生産で最も急速な成長を遂げている。世界的に米中の対立が続く中にあってリチウムの供給は新たなフロンティアとして浮上している。さらに、資金難に見舞われ、デフォルト(債務不履行)に陥ったことも多い同国が世界の債券保有者や440億ドル(約6兆4000億円)規模の融資を受ける国際通貨基金(IMF)にどのように返済するのかという問題も抱えている。

投稿者 宍戸和郎